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小児救急医療めぐり都内で討論会 医師偏在など課題浮き彫り

からだのレシピ

わが国の医療を論じるとき、とかく高齢者の問題に関心が集まりがちだ。そうした中、次世代の日本を担う子供の医療、とりわけ小児救急医療に関する討論会が6月24日、東京都内で日本小児救急医学会学術集会の重点プログラムとして開かれた。討論会では地域によって小児科医が偏在している問題などが浮き彫りになった。(大家俊夫)

松藤凡氏

討論会は「つつうらうらの小児救急事情」と題して開催。このタイトルには、学術集会の大会長を務めた聖路加国際病院(東京都)の松藤凡(ひろし)・小児総合医療センター長(副院長)が前任地の鹿児島で僻地(へきち)医療を経験したことを踏まえ、全国の小児医療を幅広く議論したいとの思いが込められた。

討論会は北海道から九州まで各地の医師が参加。松藤氏と共同座長と務めた横浜市立大附属市民総合医療センター(横浜市)の六車(むぐるま)崇医師は「人口減、少子化の中で小児医療をどう支えるのか」と問題提起を行った。

藤沢市民病院(神奈川県藤沢市)の船曳(ふなびき)哲典医師は小児科病院が減少して地域で偏在している現状を指摘し、「集約化はすでに限界を迎えている。患者から小児科病院がどんどん遠くなっている」と憂慮した。

別の医師からは全国の2次医療圏の3割では小児科医が10人未満となっている現状が紹介された。2次医療圏とは医療行政上、都道府県の中で分割した医療エリアのことだ。一方、東京都の湾岸エリアのように小児人口が急増している地域があり、地域に合った小児医療体制を構築する必要性も指摘された。

小波瀬(おばせ)病院(福岡県)の松島卓哉医師は過疎の医療圏に小児科を立ち上げた例を話した。福岡市立こども病院(福岡市)の古野憲司医師は「小児の内科系救急患者受け入れ困難 ゼロ宣言」の取り組みを発表。「院内で受け入れ病床を確保し、救急隊とのホットラインを開設した。勤務医の数は増員せず勤務体制の変更で対応してHCU(準集中治療室)にも小児科医の専任も配置した」ことを明らかにした。体制確立後の2年間で人的・物理的理由で救急隊からの受け入れ要請を断ったのは4例にとどまったという。

参加者からは「小児科は多くの病院で赤字部門。存続させるためには、診療報酬上の支援が必要となってくる」との声も。制度上の整備も早急に求められている。

出産などでリタイア 女性医師の復帰重要

市川光太郎理事長

学術集会大会長を務めた松藤凡氏と日本小児救急医学会の市川光太郎理事長(北九州市立八幡病院長)にそれぞれ小児救急の課題を聞いた。

松藤氏は「小児医療費は医療費全体の1割以下となっている。診療報酬の点数が少なく、処方される薬の量が少ないことも関係している」と話す。その一方で、大人への注射は医療者が1人で済むところ、子供だと、押さえる人と注射する人の計2人は必要で、手間がかかる現状を訴えた。

松藤氏によると、大人と子供の医療は医学的に別物で、それぞれの専門医が診るべきだとされる。それでも、小児科が不足すれば、大人を診る内科医らが子供を診察する異常事態も起き得るという。

市川氏は「小児科医の登録数は微増傾向にあるが、実際に稼働している小児科医の数は減っている」と指摘。「全体の約3割を占める女性医師が出産などでリタイアしている。子育てが一段落した後、どのように女性医師に復帰してもらうかが重要となってくる」と話した。

小児救急医学会学術集会の討論会ではさまざまな問題が話し合われた
=東京都中央区の聖路加国際大学

脂質異常症患者に光、新たな治療薬承認

中性脂肪減らし善玉コレステロール増加

血液中の脂質バランスが崩れる脂質異常症の患者数が、食の欧米化などを背景に増加傾向にある。バランスの崩れは動脈硬化を引き起こす危険因子となり、悪化すると心疾患や脳梗塞につながる。厚生労働省は、中性脂肪(TG)低下と善玉コレステロール(HDL)増加作用を併せ持つ新治療薬の国内製造販売を3日付で承認した。治療選択肢の拡大に期待が集まっている。

今回承認された薬は「ペマフィブラート」(商品名パルモディア)。医薬品製造の興和(本社・名古屋市)が開発から手がけ、自社で創薬した。

脂質異常症は、悪玉コレステロールや中性脂肪が高い状態、あるいは善玉コレステロールが低い状態をいう。以前は高脂血症と呼ばれていたが、値が少ないことが問題となる善玉コレステロールも含めることになり、平成19年から脂質異常症に病名が変わった。

厚生労働省の患者調査(26年調べ)によると、継続的に治療している患者数は約206万2千人だが、予備軍を含めると3千万人という指摘もある。メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)と深く関わり、放置すると動脈硬化から心疾患や脳梗塞などにつながるため、予防や早期治療が重要視されている。

承認薬は、遺伝子発現を制御する核内受容体PPARαを高い選択性をもって、非常に低用量から活性化することで血中の中性脂肪を低下させ、同時に善玉コレステロールを増加させるという。当面は中性脂肪150mg/dL以上の患者が投与の対象となる。

今年3月からは、日本を含む世界24カ国で700以上の施設が参加する大規模臨床試験を実施。脂質異常症が引き起こす心疾患の発症や再発予防効果についての研究が進んでいる。

興和の三輪芳弘社長は「多彩な可能性を持つ薬。多くの方の健康につなげたい」と話している。

8月4日は栄養の日 笑顔で楽しく食事を

消化や吸収がアップ

日本栄養士会(東京都港区)は昨年、8月4日を「栄養の日」、8月1〜7日を栄養週間に制定し、今年度からさまざまな活動を推進する。

近年、高齢者のやせすぎと低栄養、あるいは若い女性のBMI(体格指数)が標準値を下回り、将来子供を出産する際に危険度が高くなるなどの問題が増えているという。そこで同会は「栄養の日」と栄養週間を設けることで、正しい情報を発信し、適切な食生活の実現を目指していく。

まずは栄養に興味を持ってもらおうとネット上に特設サイト(https://www.nutas.jp/84/)を開設した。栄養習慣についての提案や食生活などに関するコンテンツを発信している。また、病院、施設、学校、ショッピングモールなど全国約540カ所で、イベント「栄養ワンダー2017」をスタート。会場では特別メニューの提案や無料栄養相談の実施、「栄養ワンダーブック」の配布、協賛企業の食品のサンプリングを8月31日まで行う。

栄養を通して健康で充実したライフスタイルを送る著名人を表彰する賞「84 Award(栄養アワード)」も新設し、8月2日に表彰式を行う。

同会広報室は、「栄養の日の活動に興味を持つことで食生活を見直すきっかけにしてほしい。笑顔で楽しく食べるだけでも消化や吸収がよくなる」と語る。第1ステップでは栄養に興味を持ってもらい、次年度に食事、代謝、栄養について考える場を作っていきたいとしている。(宇山公子)

日本医師会 赤ひげ大賞

日本医師会赤ひげ大賞第5回受賞者 大森英俊医師

医療過疎地域の体制づくりに注力

「茨城県北には医師が全国平均の3分の1しかいない」と話すのは常陸太田市で大森医院を運営する大森英俊院長。「このままでは過疎地域において医療がなくなってしまう。なんとかできないか」という思いがあり、県南の筑波大学から地域医療を学ぶ医学生を受け入れ、今年で12年目になる。その連携が功を奏し、大森院長の進める「複数人で負担軽減を図る過疎地域の医療体制づくり」に、学生のとき地域医療に興味を持った医師が協力してくれる流れができ始めた。

医学生(右)と看護師(中央)とともに訪問診療を行う大森英俊院長

おおもり・ひでとし

茨城県常陸太田市徳田町の大森医院院長。昭和29年、茨城県生まれ。63歳。岩手医科大医学部卒。同大第1外科助手を経て、平成5年に父の後を継ぎ大森医院での勤務を開始。翌年、理事長に就任。高齢化の進む医療過疎地で、在宅医療や介護サービスの充実に尽力。医学生や若い医師を受け入れ、地域医療実習を行うなど家庭医の育成にも力を入れている。

大森院長は過疎地域の医療を山登りに例える。山登りでは山の中腹にベースキャンプを置き、さらに山頂に向けて拠点を作りながらトライする。医療過疎地域における山頂は町から離れた奥地の集落。ベースキャンプにあたる「ひたち太田家庭医療診療所」を4月に開業した。広い範囲をカバーできるよう、ここを拠点として小さな診療所をいくつか設ける予定だ。少し離れた水戸市などから医師が週に1、2日来られるような場所を確保し、医療過疎地域における医師の“入り口”を作っていく。

医療過疎地域では、民間診療所の存続が世襲などに任されており、医師の供給が安定しないことが問題の一つ。「医師の高齢化などで医療が途絶してしまってから何とかしようとしても無理。今のうちから取り組み始めないと」と大森院長。若い医師には家庭や子供の教育などもあり過疎地域に呼び込むことは難しい。そこでローテーションにより医師の個人負担軽減を提案し、無理のない医師確保を目指す。「1人の医師に頼るのではなく、複数の医師による協力体制が安定した医療の供給になる」

この体制づくりは約10年前、筑波大学が声を掛けてくれたことが核となっているという。民間の診療所に声が掛かることはまれで「父から大森医院を継ぎ、訪問診療や在宅診療の流れをつくった。その試みを認めてもらえてうれしかった」。「学生に地域医療の現場を見せると興味深く見てくれて、面白さ・やりがいを感じてくれていることが分かった」という。大森院長はそういう学生らと仕事後に酒を酌み交わすのを楽しみにしている。

「赤ひげ大賞」

主催:日本医師会、産経新聞社
特別協賛:太陽生命保険
ホームページ http://www.akahige-taishou.jp/

第10回 これからの健康と栄養を考えるシンポジウム 自分の体はジブンで守る