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「臓器移植法」20年・・・増えぬドナー 国を挙げての取り組み不可欠

からだのレシピ

今年10月、脳死移植を可能にした「臓器移植法」の施行からちょうど20年になる。臓器を提供しようとするドナーと、それがないと生き続けられないレシピエント(患者)とを結び付けて支えるのが臓器移植法である。しかし肝心のドナーが増えない。どうしたらドナーを増やせるのか。臓器を斡旋(あっせん)する日本臓器移植ネットワークの門田守人理事長(71)の講演を聞いて考えた。
(産経編集センター特別編集委員 木村良一)

講演する門田守人理事長=東京都千代田区内幸町

整わない病院の体制、司法解剖を優先

門田氏は日本を代表する肝臓の移植医の一人で、大阪大学副学長やがん研究会有明病院長などを歴任。今年6月には日本医学会会長に就任した。講演は「移植医療の現状と課題」と題して2月28日、日本医学ジャーナリスト協会が主催し、東京・内幸町の日本プレスセンタービルで行われた。

世界最低レベル

臓器移植法の改正後もドナー数は期待したようには伸びず、脳死ドナーは年間平均50人。年間数千人の欧米と比べると、かなり低く、人口100万人当たりの各国のドナー数と比較しても世界最低レベルだ。

これに対し、日本臓器移植ネットワークに登録された心臓や肝臓、腎臓などの移植希望患者は5月末時点で1万3366人。ドナーが現れるのを待っても移植の順番が回ってこないのは明白で、高額の費用がかかる海外渡航移植に望みをかけるしか道はない。

門田氏は「とても脳死移植を実施している国とはいえないし、私も『日本の移植医』と公言できない」と嘆く。

講演の後半、門田氏は脳死ドナーが現れる「5類型施設」に「大きな問題がある」と指摘。大学病院や救命救急センターなど5つに分類され、高度の医療を持つ862の病院がこの5類型施設だ。

門田氏は平成27(2015)年6月時点で、半数を超える472施設が「脳死移植の体制が整っていない」と厚生労働省の調査に回答している点を取り上げ、「脳死に陥る病院によって臓器が提供できる、できないが決まるのはおかしい」と訴えた。

後発の韓国にも抜かれ

日本より遅れて臓器移植法が成立したにもかかわらず、日本よりも脳死ドナーの数が多い韓国の状況にも言及し「韓国では救急病院に対し、脳死者の発生を斡旋機関に通報することが義務付けられ、この制度によって脳死ドナーが多く出ている。3年前のデータを比較しても韓国の脳死ドナー数は日本の9倍にもなる」と説明する。

さらに門田氏は脳死者の司法解剖が優先され、臓器提供に結び付かない問題にも触れ「欧米では臓器の摘出手術に司法解剖医が立ち会い、その立ち会いの中で事件性の有無を調べるので臓器提供に支障が出にくい」と語る。

臓器移植法で臓器提供に限って脳死を人の死としている点についても「おかしい」と異議を唱える。脳死は医学的に人の死であるからだ。

門田氏の指摘を総合して考えていくと、国を挙げて問題の解決に取り組まなければ、ドナー不足は解消できないことがよく分かる。

【用語解説】臓器移植法

平成9(1997)年6月17日に成立、同年10月16日から施行。その後、21(2009)年7月13日に改正され、翌年7月17日から改正法が施行された。この改正で15歳未満の子供を含め、本人の意思が不明でも家族の承認だけで臓器提供ができるようになり、ドナーの増加が期待されたが、現状は厳しい。

腸内環境整え熱中症に負けるな

規則正しい食事で食物繊維と乳酸菌を摂取

順天堂大学医学部の
小林弘幸教授

じめじめした梅雨から猛暑の盛夏へと、熱中症に気を付けなければいけない季節が続く。熱中症とは、自律神経を障害されて、人間の体に備わっている体温調節機能が働かなくなった状態のこと。この熱中症の発症に、順天堂大学医学部の小林弘幸教授は「腸内環境が大きく関わっている」と話す。

腸の機能は、栄養や水分を吸収し、蠕動(ぜんどう)運動によって残りを便として排泄(はいせつ)することにある。ところが腸内環境が悪化すると、水分を摂(と)っていても吸収されにくくなり、自律神経が影響を受けて蠕動運動が不活化する。

小林教授は「腸内環境が整っていれば質の良い血液が全身の細胞に流し込まれるので、多少の脱水が起こっても人間は耐えられる。ところが環境が悪化するとアンモニアや硫化水素といった有害物質が血液に入って体内を巡り、わずかな脱水や気温変化にも対応できなくなる」と指摘する。熱中症の原因として小林教授がもう一つ重視するのが睡眠不足だが、ここにも腸内環境が影響する。「腸内環境が悪化すると脳におけるセロトニンの分泌が抑制され、睡眠不足を引き起こす」と、いわば悪循環に陥るわけだ。

熱中症を予防するためには、どうしたら良いか。日常的に簡単にできることとして、小林教授はまず「朝起きたら1杯の水を飲むこと」を勧める。人間は寝ている間に発汗しているので、起き掛けはただでさえ脱水状態にあるからだ。

また冷房は冷やし過ぎないことが大切。体温調節は温度差に対応するものだが、「7度以上になると自律神経が大きく障害される。近年は外気温が上昇しており、一方冷房の普及で室内は涼しい。昔と比べて室内外の温度差が大きくなっていることが、熱中症が増えた原因の一つ」。

腸内環境を整えるには、食事が重要だ。まずは1日3食摂って、適度に腸を動かすこと。「長時間使わないで突然食べ物を入れると、腸はストレスに感じる。1日3度というのは理にかなっており、特に朝食をきちんと摂って体内時計をつかさどる時計遺伝子を動かすことが大切」。食事の内容面では、食物繊維と乳酸菌が重要となる。乳酸菌が入った食品の代表的なものはヨーグルト、納豆、キムチなどだが、近年はいつでも手軽に摂れる乳酸菌入りチョコレートなども出ている。チョコレートにはカカオ由来の食物繊維も含まれ、併せて摂ることができる。「これらを利用することも、熱中症を予防する一つの方法」と小林教授は話す。

歯垢除去重視で全身病予防

歯磨きの方法の常識を覆した森さんの著書

歯科医・森昭さん提唱 食後の歯磨きの新常識!?

食後に歯をごしごし磨く方法には多くの誤解があり、歯間などに付着したプラーク(歯垢(しこう))を取り除く方法に重きを置くべきだとする方法が話題になっている。その背景には、単なる虫歯予防ではなく、歯周病菌による全身病を防ぐことが関係している。

この方法を提唱する歯科医は、京都府舞鶴市で開業する森昭さん。森さんが歯磨きとの関係で着目するのは食後に唾液の分泌が増えるメカニズムだ。「唾液は殺菌効果が強く、それだけで虫歯予防につながる」と指摘する。

歯磨きは就寝中に増殖した口腔(こうくう)内の雑菌を減らすために朝の食事前にするのは効果的だが、唾液の効果を知らずに、食後に歯磨き剤を使ってごしごしと歯磨きをすると、せっかく分泌した唾液を除去してしまうという。

通常の食後にすべきことは、「歯間や歯周ポケットにたまったプラークを取り除くことだ」と提唱する。

その理由について森さんは「歯間などにたまったプラークは歯周病につながる。歯周病菌は歯肉から血管を経由して全身に広がり、糖尿病や脳梗塞の要因の一つになるから」と話す。このほか、歯周病菌がアルツハイマー病に関係したり、妊婦の歯周病菌が赤ちゃんの低体重につながったりするリスクも研究で明らかになりつつある。つまり、プラークは放置すると、全身病につながる可能性があるというのだ。

森さんはベストセラーになった『歯はみがいてはいけない』に続いて『やっぱり、歯はみがいてはいけない 実践編』(いずれも講談社刊)を今月出版した。この実践編ではフロスなどの使い方が詳しく紹介されている。

森さんはMDE(メディカル&デンタルエステ)協会をつくり、全国の歯科医師や歯科衛生士への啓発活動も行っている。

「歯を磨くなというのではなく、プラークや雑菌を取り除く方がより重要ということを知ってほしい。健康長寿には口腔内の健康が大切になってくる」と呼びかけている。

第10回 これからの健康と栄養を考えるシンポジウム 自分の体はジブンで守る