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「末梢性T細胞リンパ腫治療薬」国内承認 世界初の経口薬、選択肢拡大に期待

からだのレシピ

血液がんの一つ「末梢(まっしょう)性T細胞リンパ腫(PTCL)」。国内の年間発症例は約2千例と少なく、長年にわたり効果的な治療方法の模索が続いてきた。再発や難治性PTCLの2次治療については標準治療さえ未確立だったが、今年3月に世界初の経口治療薬「フォロデシン」が国内承認された。この新薬を使った治療戦略についてのメディアセミナーが東京都内で開催され、専門家らは治療選択肢の拡大や入退院の負担軽減に期待を寄せた。

難しい2次治療

PTCLは、悪性リンパ腫の一つで、成熟した免疫細胞のT細胞やナチュラルキラー(NK)細胞を起源として、リンパ系腫瘍細胞がさまざまな臓器浸潤を引き起こす。国立がん研究センターの統計によると、日本での年間発症例は約2千例と少ないが、病型は多岐にわたる。65歳以上の発症率が高く、月単位で病気が進行する中悪性度リンパ腫の10〜15%を占めるとされている。

1次治療は、点滴と注射による数種類の抗がん剤を組み合わせた併用化学療法「CHOP(チョップ)療法」が確立されている。しかし、入院や繰り返しの通院が必要となり、外来が可能な場合でも薬の投与に6〜8時間かかる。副作用も強く、治療の継続が難しかった。さらに、この療法が効かなかったり、再発した場合の2次治療については標準的な治療方法さえないのが現状だという。

がん研有明病院血液腫瘍科の畠清彦部長は「2次治療では造血幹細胞移植が検討されるが、患者さんが高齢であることが多く適応とならない。治療選択肢はさらに狭くなり、予後の悪い疾患である」と説明する。

自宅での治療可能に

フォロデシンを開発するムンディファーマ(本社・東京都港区)は「標準治療が確立していない分野に、新しい治療の“機会”を作っていきたい。実臨床での症例を収集し、患者さんや医療関係者、多くの方に情報を発信していきたい」と意気込む。国内で実施された臨床試験結果では、生活の質(QOL)に影響を与える脱毛などは認められず、従来の薬に比べ忍容性が高いことが分かっている。畠部長は「経口薬であることから、場合によっては外来での2次治療の継続が可能となり、社会復帰や自宅での時間を大切にしたいと願う患者の気持ちに寄り添うことができるのでは」と指摘する。

悪性リンパ腫の患者団体「グループ・ネクサス・ジャパン」の天野慎介理事長は「病気が治りにくいといわれてきた患者にとっては、治療の選択肢が一つでも増えることは希望につながる」と話している。

末梢性T細胞リンパ腫の2次治療について、メディアセミナーで説明するがん研有明病院血液腫瘍科の畠清彦部長(中央)=4月21日、東京都千代田区(菊本和人撮影)

急性リンパ性白血病に新治療法

標準薬+マラリアの薬でがん細胞死滅 オートファジー機能を阻害、東京医科歯科大が発表

急性リンパ性白血病の治療で、既存の薬剤を組み合わせたところ、オートファジー(自食作用)の働きが阻害され、がん細胞が死滅するとの新たな研究成果が東京医科歯科大学のグループによって発表された。オートファジー研究では昨年、東京工業大学の大隅良典栄誉教授がノーベル医学・生理学賞を受賞、その熱気が冷めやらぬうちに、オートファジー機能を標的とした今回の同研究が日本発で結実し、注目を集めている。(大家俊夫)

世界的な研究成果を解説する井上純講師(左)と稲澤譲治教授=東京都文京区の東京医科歯科大学

ドミノ倒しで攻撃

この研究は東京医科歯科大学難治疾患研究所の稲澤譲治教授(疾患バイオリソースセンター長)と井上純講師らによるもので、3月に国際科学雑誌「オンコジーン」に掲載された。

稲澤教授によると、小児の白血病で頻度が高い急性リンパ性白血病の治療において、「L-アスパラギナーゼ」が標準薬として使われている。稲澤教授のグループは今回の研究で、L-アスパラギナーゼの生理作用をさらに詳細に調べた。その結果、同薬の投与で白血病細胞に起こるアスパラギンの不足は、細胞毒性として働くミトコンドリアの傷害と活性酸素の過剰を引き起こす。その時に活性化されたオートファジーによって傷害ミトコンドリアや活性酸素が除去され、同薬の治療効果が失われてしまうことを突き止めた。

そこで、L-アスパラギナーゼの投与時に、オートファジーの働きを抑えることが知られているマラリア抗菌薬「クロロキン」を併用。その際、オートファジー活性が低下した白血病細胞では傷害ミトコンドリアや活性酸素が細胞内で蓄積することでDNA傷害が起こり、これが導火線となって細胞死誘導タンパク質のp53が活性化された。まるでドミノ倒しのようなメカニズムで「活性酸素-p53ループ」が形成され、がん細胞を効率的に死滅させることが分かった。この併用効果は人の急性リンパ性白血病細胞を移植したマウスを用いた実験でも確認され、クロロキンを併用したマウスは、L-アスパラギナーゼ単独の投与のマウスよりも生存期間が長くなることが示された。

クロロキンはマラリア抗菌薬のほか、全身性エリトマトーデス治療薬としてすでに認可され使用されている。

患者に大きな希望

稲澤教授によると、血液のがん、急性リンパ性白血病は国内では年間400〜500人が発症。現行の治療では5年生存率は8〜9割で、毎年40人ほどが命を落とす。薬剤耐性が出たり、骨髄移植を余儀なくされたりするケースもある。

井上講師は3年半の歳月がかかった研究について「L-アスパラギナーゼの生理作用はあまり分かっていなかった。今回の研究でその一端を明らかにでき、新しい治療戦略の開発につながる可能性があると考えている」と語る。稲澤教授は「既存の薬を併用するため、医療経済的にも恩恵が得られる。がん細胞を死滅させる可能性として患者さんには大きな希望となる」と今後は創薬に向けて研究を加速させるとしている。

同研究は6月29、30の両日、文部科学省などの協力を得て東京医科歯科大学で開催する第1回国際がんプレシジョン医療カンファレンスで井上講師が発表する予定。

日本医師会 赤ひげ大賞

日本医師会赤ひげ大賞第5回受賞者 下田輝一医師 山内診療所院長

「日本医師会 赤ひげ大賞」(主催・日本医師会、産経新聞社)の第5回受賞者・下甑(しもこしき)島(鹿児島県薩摩川内市)の瀬戸上健二郎さん(76)は38年間勤めた下甑手打診療所を3月末に退職した。離島医療をテーマにした漫画「Dr.コトー診療所」のモデルでもあった瀬戸上さんに近況や離島・僻地(へきち)医療の今後について聞いた。

しもだ・てるかず

昭和18年、現在の秋田県横手市に生まれる。岩手医科大医学部大学院修了。呼吸器内科を専門に同大助手、講師を歴任し、54年に市立横手病院第一内科科長に転じる。平成2年から現職。三又へき地診療所など過疎化が進む3つの地域で、唯一の医師として地域医療に従事し、通えない患者のために訪問診療も行っている。

生涯現役、地域医療支える

「もういい年だけれども、体が動くうちはできる限り続けたいねえ」と生涯現役を掲げるのは、山内診療所(秋田県横手市)の下田輝一院長。張りのある声は年齢を感じさせない。山内診療所のほかに、医師だった父から継いだ旧大雄(たいゆう)村(現・横手市)にある下田病院、三又へき地診療所での診察のほか、週2回の訪問診療も行っている。1週間で診る患者の数は述べ約70〜80人にも上る。

山内地区は豪雪地帯の山間部だが除雪機が稼働しており、幹線道路は四輪駆動車であれば問題ない。下田院長が診察できない間は、近くにある訪問看護サービス「ナースステーションふきのとう」の4人の看護師と連絡を取り合い、地域医療を支えている。

現在に至るまで導かれるようなタイミングに恵まれてきた。10年を過ごした大学病院で、恩師が辞めるときに横手市立横手病院から「人手が少ないから助けてほしい」の声。そこでもう一人の医師と必死に頑張った結果、傾いていた病院の経営が安定。そのときにちょうど地元近くの無医村だった山内村で働いてほしいという話が来たという。看取(みと)りに関しては「よく聞かれるがとても難しい」と話す。最近では患者を病院から早めに自宅に帰す傾向があり、自宅で看取る場合は「嫁さんが仕事を辞めて世話をしなくてはいけないケースも増え、続けたかった仕事を辞めるのは残念だろう」という思いを強くしている。

「地方だからなかなか若い医師が来てくれない」というのが悩み。若い人は大きい病院で10年くらいさまざまなことを勉強しなければいけないから、一概にすぐ来てほしいとも言えない。後継者がいる地域は「うらやましい」と語る。

「やっぱり息抜きも大切だよ」と話す下田院長の趣味はクラシックギター。「2、3日触ってないと触りたくなってくる」と話すほど好きで週に2、3回は自宅で「アルハンブラ宮殿の思い出」や「禁じられた遊び」などの曲を弾く。ソリストの村治佳織や福田進一、山下和仁の演奏を聴きに行くことも好きで、東京の浜離宮朝日ホールに出かけ英気を養うという。

「赤ひげ大賞」

主催:日本医師会、産経新聞社
特別協賛:太陽生命保険
ホームページ http://www.akahige-taishou.jp/

第10回 これからの健康と栄養を考えるシンポジウム 自分の体はジブンで守る