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ゲノム+AI=患者に最適ながん治療法

からだのレシピ

がん研などが未来志向型システムを共同研究

患者のゲノム(全遺伝情報)と医学情報をAI(人工知能)で解析し、最適のがん治療方法を提供する未来志向型システムの研究が稼働した。公益財団法人がん研究会(がん研=東京都江東区、草刈隆郎理事長)とITベンチャー、FRONTEOヘルスケア(東京都港区、池上成朝社長)が共同研究する。手始めに乳がんと肺がんを対象とし、5年以内をめどにスタートさせる計画だ。(大家俊夫)

中村祐輔 特任顧問

共同研究には遺伝医学の世界的な権威である米シカゴ大・中村祐輔教授が特任顧問として参画。これに先立ち、がん研に昨年10月、がんプレシジョン医療研究センターが設立。所長にはがん研研究本部長の野田哲生氏が就任した。

現行のがん治療では、効かない可能性の患者にも抗がん剤を投与したり、治療方法が尽きてしまったりする弊害もある。

そうした弱点に対して、KIBIT(キビット)というAIが大きな威力を発揮する。FRONTEOヘルスケアが開発を担当する。

4千倍の理解速度

野田哲生 所長

1つは診断支援システムだ。計画では患者はまず、がん研有明病院で診察を受ける。がんと診断された場合、同意を得た上で同センターで患者の遺伝子情報を取得。がん関連遺伝子の異常を解析するクリニカルシークエンスや血液などからがん細胞の遺伝子異変を調べるリキッドバイオプシーの手法により、遺伝子異常などを見つけ出す。これらの遺伝子情報に加え、論文などの医療情報をKIBITに入力する。

その際、AIにやみくもに医学情報を覚えさせるのでなく、中村特任顧問のようなハイレベルの専門家が治療に応用できる良質な論文を選別してAIに読み込ませる。KIBITには「不要な情報を省きながら専門家の判断と感覚を学ぶのに優れ、しかも人間の約4千倍の速度で文章を理解して仕分けできる」(同社広報)機能がある。これにより、良質な治療方法を迅速に選び出せるようになるという。

適切な説明を選ぶ

2つ目はインフォームドコンセント(十分な説明と同意)を支援するシステムだ。KIBITは医師を補助する形で、患者の理解に応じて双方向で適切な説明レベルを選び出す。

これにより、「インフォームドコンセントに要する時間を短縮でき、医師は治療により多くの時間を割けるようになる。患者も医師には聞きづらいことも、相手がAIなら遠慮なく質問できる」と野田所長は説明する。

KIBITの支援を受けながら、最終的には医師が判断して、患者に複数の治療方法を提示する。

がんの治療方法は日々進歩しながら、複雑化している。中村特任顧問は「どんな優秀な医師でも世界中の医療情報をすべて知っていることは難しい。そこにはAIが手助けとなる」とし、患者に対しては「抗がん剤の効き具合を遺伝子レベルで事前に調べ、なるべく苦しくない治療方法を探し出す。あるいは免疫療法や分子標的薬治療を提案し、最適な治療方法を見つけ出すことを目指す」と期待を込める。

東京医科歯科大・磯部教授が最終講義

「医師は謙虚さ忘れずに」

東京医科歯科大大学院の磯部光章(みつあき)主任教授(64)=循環制御内科学=が15日、医学生に向けて「医はアート、医学は知、教育は情熱」と題して退官前の最終講義を行った。他大学で若手医師や医学生らによる不祥事が相次ぐ中、医師の心構えを説いた講義は広く参考になるだろう。

心臓移植や循環器の治療で数々の実績を有し、日本心不全学会理事長などを歴任した磯部教授はこの中で、「医学は知」であるのに対し、「医はアート」であるとの持論を披露。「医療の対象は個別の心、魂や身体を持った個人の患者であり、その患者の利益を追求する総合的な技術を持つことが優れた医師の条件だ」と訴えた。

職業という言葉を表す英単語がいくつもある中で、医師は「知識の高度なレベル」の職業を意味する「Profession」に相当するとし、「病人の苦痛を医師が扱えないようならば、医師の名に値しない」と述べた。

具体的な心得としては、患者を人間として理解する▽疾患でなく患者に関心をもつ▽知識欲・向上心を失わず一生勉強し技を磨き続ける−ことを挙げ、その上で「医師としてのプライドは失わず、かつ謙虚であるべきだ」と強調した。

難関の医学部受験をパスした学生はともすれば、謙虚さを忘れることがあるかもしれない。磯部教授の重みのある言葉は、多くの医学生らの心に突き刺さるはずだ。

磯部教授は東京大医学部卒、米ハーバード大マサチューセッツ総合病院に留学。その後、東京医科歯科大に移り、研究や医師としての取り組みで顕著な成果を挙げる一方、学生教育にも定評があり、東京医科歯科大ではベストプロフェッサー賞とベストティーチャー賞を合わせて9回受賞している。

そうした実績を置き土産に磯部教授は4月に榊原記念病院の院長に就任する。これまでの取り組みなどを「症状から診断・治療へ−循環器診療のロジックと全人的アプローチ−」という書物にまとめ、近く出版する予定だ。

最終講義で医学生に熱いメッセージを送る磯部教授=東京都文京区の東京医科歯科大学

車中泊での死亡事故を防げ!

弾性ストッキングの備蓄 自治体で加速

ベノサンの災害用弾性ストッキングのセット

長期にわたる車中泊が問題となった熊本地震から4月で1年。この間、自治体は地域防災計画を見直し、新たな対策を盛り込む取り組みを加速させている。その一つに、血栓予防が期待できる弾性ストッキングの備蓄がある。

熊本地震では車中泊に伴って死亡事例があった。主な原因は肺の血管に血栓が飛ぶエコノミークラス症候群によるとみられている。

車中泊による死亡事例は新潟県中越地震(平成16年)でも発生。東日本大震災(23年)でも問題となったが、熊本地震で分かったのは、車中泊対策が十分でなかったことだ。とくに熊本県内などの関連自治体で弾性ストッキングの準備がほとんどなかった。

全国の自治体ではこれを教訓に備蓄を検討する動きが出ている。岐阜市も、来年度予算で弾性ストッキングの備蓄を目指している。「震災時、市民には適度な運動やこまめに水分をとる重要性を呼びかけているが、市としては弾性ストッキングを備蓄し、まさかの時に備える方針だ」(市防災対策課)という。

同市では市内を50地域に分け、拠点の小学校などに災害用の備蓄倉庫を整備。そこには発電機や簡易トイレ、食料などを備蓄しており、弾性ストッキングもここで備蓄する予定だ。

弾性ストッキングを扱うメーカーにも自治体からの相談が増えている。スイスのメーカーの日本法人、ベノサン・ジャパン(東京都千代田区、金盛弘社長)では、災害時・旅行時用として「JET LEGS」を新発売した。同ストッキングは一般医療機器に認定され、避難所などで使いやすく色も黒に統一した。

自治体からの問い合わせには弾性ストッキングのメカニズムや使い方などが多いという。同社では無料相談を受け付けている。問い合わせは同社事務局(電)03・6638・6003。

第10回 これからの健康と栄養を考えるシンポジウム 自分の体はジブンで守る
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